なぜ野薔薇が復活すると言えるのか?
結論から言うと、彼女が『救世主(メシア)』だから。
正確に表現すると、彼女がその様な存在であることを示唆するサインが作品中に見受けられるからです。
まず、一つ目の重要なサインは彼女が使っている呪具である、金槌。
「!?」
「金槌と救世主って全然関係なくね?」
って突っ込みがありそうですが、そのあたりは順を追って説明していきます。
まず金槌を使った呪術と聞いて連想するのが「丑の刻参り」。
実際に釘崎野薔薇が藁人形を使って対象にダメージを与える術式を用いている事からも、これが丑の刻参りの儀式を模したものだとすぐに理解できます。
呪術廻戦における呪術は、古典的なものから、近代的な兵器を用いたものまで様々ですが、野薔薇の術式は、日本人にとって呪いという言葉から連想される最も伝統的なモチーフと言えます。
そもそも、呪術(呪い)って何なのか?
これを説明する為に、文化人類学の祖である、サー・ジェイムス・フレイザーの名著『金枝編』から、引用してみたいと思います。
フレイザーは金枝編の中で、人類が古来から用いてきた呪術には、主に二通りの形式があるとしています。
1つ目は『類感呪術』
これは、影響を与える(受ける)対象の形状や特徴を模したものを呪術の儀式に用いる形式とされています。
例えば雨乞いの儀式で水を撒いたりするのは、雨を表現した類感呪術と言える。
逆に天気を願って飾るテルテル坊主も、太陽を模した類感呪術の一種。
野薔薇が使う術式のモチーフである丑の刻参りも、対象を模した人形を用いるため、この形式に相当します。
二つ目は『感染呪術』
これは対象となる人物の一部(衣服や頭髪など)を呪術に用いることで、影響を与える事ができるという「共感性」の発想から、生まれた形式です。
例えば、ネイティブアメリカンのある部族は、敵対する部族の頭皮をはぎ取って頭に被ることで、その力を手に入れられると考えていました。
日本の風習から例を挙げると、古来体の弱い子供を持つ親は、近隣住民の子供が身に着けていた衣服の一部をもらい受け、継ぎ接ぎしてこしらえた着物を身に着けさせるという習慣があったとされています。
丑の刻参りでは、呪いの人形に髪の毛など対象の一部を用いることから、二つの呪術形式の特徴を併せ持つ事が分かります。
呪いって聞くと、対象にマイナスの効果をもたらすものってイメージが強いですが、元々は「自分の望みをかなえる為の儀式」という定義なんですね。
野薔薇の原体験
さて、呪術の定義が分かったところで話を戻して、次に野薔薇の原体験に注目します。
釘崎野薔薇は幼少期、地元である東北の田舎町で、都会から引っ越して来た「沙織ちゃん」という少女と仲良くなります。
沙織ちゃんは、幼い野薔薇にとっては優しくて美しいまるで『聖母』のような存在で、憧れの対象でしたが、よそ者を毛嫌いする町人の嫌がらせで町を追われてしまいます。
この話の構造を見てみると、都会生まれの「聖」なる存在である沙織ちゃんと、田舎育ちの「俗」なる存在である町人との対立が描かれている事が分かります。
この「聖」と「俗」の二項対立は、一般的に「宗教」が持っている構造であることが知られています。
キリスト教で当てはめるなら、「天国と地獄」、「天使と悪魔」など、聖なる属性と俗なる属性の対立構造がその世界観の下敷きになっている事が分かります。
また、聖母の様な存在である沙織ちゃんが、町人によって迫害される構図は、救世主であるイエスが、ユダヤ教徒によって迫害を受ける、キリストの受難を連想させるものになっています。
「花言葉」に隠されたメッセージ
呪術廻戦に登場する人物の名前は印象的なものが多いですが、虎杖(いたどり)や、伏黒(ふしぐろ)など、植物に由来する名前が多い事が知られています。
植物といえば気になるのが、花言葉。
「野薔薇」の花言葉は、「痛手からの回復」「素朴な愛」などですが、ここでも「回復の奇跡」を用いて「隣人への愛」を説いたキリストの布教活動との共通性が伺えます。
『💛マーク』デコレーションの意味
野薔薇の持つ金槌にはハートマークのデコレーションがあります。
ストレートに解釈すれば、ヒロインである野薔薇が、女性らしさを現したハートマークを自分の武器にあしらっているという事になりますが、更に深堀していきます。
ハートマークの持つ本当の意味は?
ハートマークの由来は、「heart」、つまり心臓と言われています。
そして、トランプで使われるハートマークは『聖杯』を現しています。
聖杯とはキリストの最後の晩餐で使われた杯の事。
キリスト教にとって重要な象徴であることから、宣教師フランシスコ・ザビエルの肖像画にもそのモチーフがはっきりと描かれています。
「でも、キリスト教の象徴っていえば、やっぱり十字架じゃね?」
もっともな突っ込みです。
でも、勘のいい人は気が付いていると思いますが、実はそのモチーフは既に示されています。
「十字の人型を釘によって固定する」という共通性から、藁人形とキリストの十字架像は、実はかなり近いモチーフであるという事実に気が付いたと思います。
ここまで列挙した事実は、野薔薇が単なるヒロインではなく、救世主的な存在であることを示しています。
そして救世主と言えば「復活」。
現在死亡が確定している野薔薇ですが、今後必ず復活し、さらに救世主的な活躍を見せる事が期待できますね。